artとdesignの距離。新規取扱ブランド【IRIES H.M.】について。

prasthana co., ltd. 代表/デザイナーの武井です。

11月。
中旬。
否、下旬。

引き続きやり甲斐のある仕事をさせて頂いております。
SS25に纏わる諸々は色々な案件が重なった関係で、8月末〜9月にかけて行った展示会後も、バタバタと海外出展やイベントをこなしてきて今に至る、という感じでした。
そして11月もそろそろ末に差し掛かるこのタイミングで、やっと営業面での業務を終えました。
イレギュラーな取り組みもあったりしたので、なかなかリズムを掴むのに苦心したところもあるにはありましたが、何にせよ引き合いがあることは大変有り難いです。
自分だけの活動域では到底巡り会えないような出会いも経験させて頂いていますからね、全てを自身の糧として物作りに反映させ、邁進していきたいものです。

そう、物作り。
公にできることできないことが実は様々あるのですが、ここへ来て何と言うか、視界が開けた感じ、という表現が適切かな、ちょっと前からは想像できなかったような熱い案件に取り組んでいたりします。
培ってきたものも少なからずありますので、それらを武器に、新しい挑戦をしている次第です。

そんな現状に紐付けつつ今日の小噺⇩

これまでにもちょいちょい発信してきていますのでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、音楽が趣味でして。
様々な作品に接してきた中でよく思うこと。
「1stが一番の名作」と言う事態。
音楽家に限らず広くアーティストの作品に関して、けっこうあるあるですよね。
これをちょっと考察。

どんな作品/表現にも準備期間があります。
例えば僕らのようなブランドの活動サイクルに置き換えると、3月のAW展示会後、9月にSS展示会を開催する。
となると、3月-9月の半年間が、SSの準備期間に該当します。
必ずしもその限りではない場合もあるかとは思いますが、取り敢えずここでは一般的なリズムとして。

で、「1stが一番の名作」という話。
至極当たり前のことを言いますが、最初の作品に関して
「準備期間がそれまでの人生の時間とイコール」です。

15歳でデビューした早熟な才能は15年間が準備期間、40歳でデビューした遅咲きの
大器は40年間が準備期間、となる。
表現をする上での技術とか周辺環境なんかは日進月歩で成長、アップデートするものとしても、こと芸術の分野においては技術が一番大切、ではなかったりするのが面白い。
肝要なのはモチーフと自己の距離感、ある種のリアルさ、その人のその人たる部分。
それらが(その時点で)持ち合わせた技術や環境と混ざり合って作品として結実するわけなので、その視点で考えると、それまでの人生がまるっと準備期間に相当する処女作が名作となるのは、スッと腹落ちします。

ですが、これはあくまでもアーティストによる表現、そして芸術という領域における話。
「アーティスト」と我々のような「デザイナー」って似て非なるものです。
「アート」と「デザイン」決定的な違いは端的に言うと「商業的であるか否か」そして「実用的であるか否か」
突き詰めると前者には、「機能をとことん排除した完璧なオブジェクト(でしかないもの)こそ芸術」という考え方も存在するくらいです。

一方で、奇しくもデザイナーなどという生き方をさせてもらっている僕からすると
「商業性/実用性を排除したものこそ崇高な創造である」
なんていう思いは全くありません。
そもそもどちらが良い悪い、という問題ではないのですが、「アート」のそれとは異なり、「デザイン」の本質的な目的は、「問題を解決すること」そして「達成したい機能を充足すること」です。
僕は「デザインをする」という行為が好きなんですよね。

「デザイナー」が時代に求められるニーズって、当たり前だけど目紛しく変化します。
一例として、一昔前「WORK WEAR」に期待される機能は、ヘビーユースに耐え得る堅牢性だったり、工具を収納したり作業を効率化するような多機能性でした。
それが今は、一口に「WORK」と言っても多種多様、なんならフィジカルの労働のイメージよりも、PC作業を思い浮かべたりする人も多いのではないでしょうか。
そうなると、「WORK WEAR」に求められる機能も必然的に変わります。
都市生活者に向けた2024年の新しい「WORK WEAR」にはスマホポケットが必須、更に座り作業の時間を快適に過ごす為にウエスト周りにベンチレーションを付加しましょう、といった具合に。

僕の感覚としては、そのような「時代が呼ぶニーズ」に対して、軸足+半歩位の幅、バスケで言うピボットをするようなイメージで物作りに臨んでいます。
(一応言っておきますが、ここで言う時代のニーズとは、ファッション的なトレンドとは異なるものです。表層的なモチーフのことではありません。)

どのような形態においても「表現」という行為は、必ず常に社会と密接な関係性のもと成り立っているもの。
推しの表現者が政治的な発言をすることを嫌ったりとか、稀にそれを否定したい人もいますが、好む好まざるを越えてそれは絶対にそう、「表現」は社会とともにあるんですよね。
社会と切り離して考える、なんてことはできないんです。
その視座に立つと、我々のようなデザイナーが成すべきこと、成せる仕事って果てしなくあるし、過去を新しい創造によって更新していくことができる、希望に満ちたものだと思います。

「prasthanaのコレクションは最新が最高」を自負していて、様々な局面で公言してきました。
初期衝動の尊さも十分に理解していますが、それを超える物作りの精度や技術を日々更新していくことが、「デザイナー」が達成するべき絶対的なテーマだと思っています。

よく「石の上にも三年」と言いますが、僕の場合「石の上にも十年」でした。
本当、自分でもゆっくり過ぎて嫌になりますが笑
prasthanaとして表現するべきコア(核、軸足)の部分と、社会との向き合い方、そして接点の持ち方。
そんなようなことが、自分の創造する衣服にやっと結実してきたな、という実感をここへ来て漸く持てるようになりました。
十年ですよ、来年で。まったく、、よくもまぁやってきたもんだ笑

で、冒頭に書いた「開けた視界」と「熱い案件」を得ることが出来る状態に至った、というわけです。

そんな調子で、作り手として大変充実した、幸せな時間を過ごしています。

良いリズムは良い循環を生み出し、そして良い縁を連れてきてくれるものです。
久し振りに心震える作品に出会いました。

本題ですが、prasthana sendagaya store にて取扱をスタートさせて頂く運びとなりました、【IRIES H.M.】について。

IRIES H.M.=アイリーズエイチエム
デザイナーは入江さん。
帽子作家さんのブランドです。

帽子好きのみならず、ファッションに少しでも関心がある人であれば誰もが知る、と言って良いくらいの著名なブランドを経て独立された入江さんは、IRIES H.M.の他にもブランドをやられていて、寧ろそちらの方がメイン。
知り合ってからしばらく経ちますが、僕の認識も多分に漏れずそれに即したものでした。
奥まったところにあり、そして積極的な営業活動を全く行っていないIRIES H.M.の存在は、知ってはいたけど掴みどころが無い、そんな感じでした。
入江さんとは雑談長電話をよくするのですが、度々話題に挙がるのが、「ウール(成形)でもブレードでも、兎に角ハットが久しく全然売れない。」という、帽子のマーケットの現状。
これは、遠巻きに眺めている僕も容易に納得してしまうくらい、まぁ、、盛り上がってはいないですよねどう考えても。。

10年ほど前はロングブリムのハットを被った人、よく見かけたんですけどね。
その頃をピークに、程なくその熱も終息し、今に至るまで冬の時代継続中、らしい。
厳密に言うと、極少数だけど盛り上がっているブランドもあるにはあるのだけど、マジでピンポイント、俯瞰で見るとほぼ焼け野原みたいな状態とのこと。
かく言う僕も、正直気分かと問われれば気分ではない。
長くファッションにどっぷり浸かっている身からすると、勿論これまでに幾度となく手を伸ばしてきた分野ではあるものの、こと現状で言うと、う〜ん、、という感じ。

顔周りって当たり前ですけど視線が集まりやすい箇所なので、そこに上質な素材感があると非常に美しい印象が出来上がり易くなるんですけどね、、。

で、このしっくり来ない感覚の原因究明をしてみて、自分なりの答えに辿り着いたのが下記2項目です。

・ブリムが広いナルシスティックな佇まい

・如何にも紳士然としたバキッと決まった硬さ

2010年台に盛り上がりをみせたハットのイメージってまさに上記のような感じで、それを被る人の人物像は良くも悪くもめっちゃカッコつけた人、キザな人でした。
時代の流れって直接的/間接的問わず、個々人の価値観にも大なり小なり影響を与えるもので、非常にシンプルな話、2024年現在、めっちゃカッコつける、というテンションがそもそもカッコよくない、のだと思います。
(あ、「着飾る」とは別次元ですよ。「着飾る」という行為は大いに良しと思います。カッコつけるベクトルの話です。) 

そんなことを考えつつ入江さんの作品を拝見していたのですが、「おや?」と。
どうやら僕が見知ったそれとは大分趣が異なるぞ、と気付いたんです。
まず、これは入江さんの好みも反映されてのことだと思いますが、質感としては一部例外はあるものの、基本的に柔らかい(極力ノリで固めることをしない)、そして全体感クシャッとしている笑

 

 

「オープンクラウン」と言って、バキバキに固められた中折れのハットなんかとは異なり、着用者の感性を反映させることができる、言わば「余白」を大切にした仕様。
ノリで固めすぎてしまうと、この「余白」が喪失してしまうということに加えて、素材本来の表情にも蓋をしてしまうことになります。
細かく紐解くと他にも色々なテクニックや要素があるのですが、兎に角この分野のハットに対する僕自身の価値観を大きく前進させてもらいました。

上述した通り、入江さんは他にも手掛けられているブランドがあって、商売的にはそちらの方が主たるところ。
IRIES H.M.名義での物作りは、全て入江さんの手仕事による創造であって、全て「一点もの」です。
この時点で大量生産なんてできる筈がない。
スタンスはGUIDI、iolomとも共通するものがありますが、いやそれ以上かな、「品番」という概念も入江さんの中では確たるものではないようです。笑

マスプロダクトでは到達し得ないクリエイションの高みと、確かな技術に裏付けされた品質、そして唯一無二の作家性。
あくまで僕の感覚ですが、IRIES H.M.における入江さんの作り手としての佇まいは、前談のアーティスト or デザイナーの話に置き換えると、
アーティスト90% デザイナー10% くらいの感じに見えています。
ギリ商業要素残してるな、みたいな笑

「なんとなく整ったように見える外観」を器用になぞっただけのハリボテの創作には興味がないです。
過去にも度々発信していますが、これだけ物が溢れる時代、自分が何をチョイスするか、僕はその基準とする重要な要素に「作り手の美意識」を据えています。
作家自らの手で造られたものにでも、工場生産で造られたものにでも、「宿るべき価値」はちゃんと宿るものです。

IRIES H.M.とても良いと思います。
今回の入荷は全4作品ですが、在庫は極薄です。

あと、便宜上「ハット」という表現を使ってきましたが、デザイン的にはハット型2pcs、キャップ型1pcs、ベレー型1pcsです。
これらは全て素材を木型にはめて成形する、というプロセスを経て作成されているもので、所謂「ハットメイキング」の技術が用いられています。

 

【COLORING】MOUNTAIN HAT with strap

 

RABBIT FUR FELT「ANTELOPE」 LOOSE FIT HAT

 

RABBIT FUR FELT CAP with strap

 

WOOL BRIM LESS with strap

 

構造上、RABBIT FUR FELT「ANTELOPE」LOOSE FIT HATのみ例外となりますが、他品番に関してはバックもしくはサイドにストラップを付属してもらいました。
強風に煽られた際、首に巻き付ける防御策として、また垂らして着用すると美しく揺らぎますので、それだけでも楽しい筈です。

シーズン毎の新作発表というスタンスを取っていない為、今後の入荷タイミングも入江さんの手次第、完全に未定。
「このブランドを新しく取り扱って儲けてやろう」とか、そんな思惑は皆無。
というかそもそも、そのような取り組みには全く向かない性質であるということは、ここまで読み進めて頂いた方には伝わっているかと思います。
何故僕がこのタイミングでIRIES H.M.のお取り扱いをスタートするのか。
その答えは至極シンプルで
「良い作品を伝えたい」
そして
「お客様方に喜んでもらえる筈。」
これ以上ない、これ以外ない、です。

prasthana及びprasthana sendagaya storeではヘッドウェアは常にフォーカスしてきたカテゴリーではありますが、ここ最近は特にキャップ(布帛縫製)とニットの比重が大きくなっています。
手を伸ばす動機としては「次なるフレッシュなもの」でも良いですし、「単純にその佇まい」を理由にして頂くのも良いと思います。

このJOURNAL記事では、各作品毎の詳細については触れません。
ブランドカテゴリーとして、既にIRIES H.M.を追加しているので、チェックしてみて下さい。
そして、少しでも感性に訴えかける部分を感じ取って頂けたら、是非手に取って頂き、頭に乗せてみて下さい。

感動しますよ。

なんて誰でも言える安っぽいことは言いません。
受け取り方は人それぞれと思います。
ですが「新しい価値」ならびに「職人仕事の美しさ」に触れる楽しさは、確実に体感できる筈です。

僕も最近はもっぱらIRIES H.M.ばかり被っています。
皆様と共有できたら嬉しいです。

宜しくお願い致します。